スリランカ難民の家族ドラマ
「ディーパン」にパルムドール!
5月13日から開催された第68回カンヌ国際映画祭は、24日にパルムドールをはじめとするコンペティション部門の各賞を発表して閉幕した。授賞式の模様はCSテレビでライブ中継されたのでご存じのかたも多かろう。今年は日本人パフォーマンス集団のダンス、プレゼンターのジョン・C・ライリーによる歌などショー的要素が強くなった感じだが、アカデミー賞に比べたら小規模だが、大人向けの成熟した授賞式であることは揺るがない。ヨーロッパはほんとうに大人中心の社会であることを強く感じる。
さて注目のパルムドールは、地元フランスの俊才ジャック・オーディアール監督の「ディーパン」に贈られた。これは、スリランカでの紛争から逃れてきた難民ディーパンの物語。彼は紛争で家族を失った元戦士。同じく家族を亡くした女性と少女と組んで家族を装ってパリへ。そこで貧民アパートの管理人となり、妻を装った女性はアパートに住む麻薬密売グループの若きボス宅の家政婦として働く。偽りの一家が次第に家族の絆を結んでいく姿をリアルに、迫力ある映像で綴っていく社会派ドラマでもある。審査員団から『エキサイトで深い感動を受ける作品だ』と高評価だった。
今回、下馬評の高かったパオロ・ソレンティーノ監督の「ユース」とナンニ・モレッティ監督の「マイ・マザー」のイタリア作品が無冠だったことは残念。センチメンタルな作品よりドライな作品を選んだのは、審査員長を務めるジョエル&イーサン・コーエンの好みなのだろうか。しかも俳優賞にヴァンサン・ランドンとエマニュエル・ベルコを選ぶとは。ルーニー・マーラを強く推す審査員もいて、女優賞はダブル受賞にはなったものの、フランスの男女優二人の喜びようは大変なもの。ランドンなんか涙ぐみながら、審査員一人一人に感謝の意を述べて抱き合っていた。
注目はグランプリに輝いた若手ハンガリー人監督ラズロ・ネメスによる「サウルの息子」だ。ナチス強制収容所で死体の始末やガス室の清掃をするユダヤ人男を、手持ちカメラで執拗に追っていく作品。これが初監督というが、その腕前は大したもの。今後が大いに期待される監督だ。そしてもう一人、「クロニック」で脚本賞を受賞したミシェル・フランコだ。家庭に赴いて介護する派遣介護士の物語で、ティム・ロスが神妙に演じている、これも社会派ドラマ。若手のフランコを手放しで誉めるロスは、受賞記者会見にも同席したほど。ともかく今回はフランス勢の圧倒的勝利に終わった。アジアからは唯一、ホウ・シャオシェン監督が「黒衣の刺客」で監督賞を受賞したのが、せめてもの救いか。是枝裕和監督の「海街diary」は残念。
レポート:岡田光由
写真:出演者を両脇にオーディアール監督
Photo by Mitsuyoshi Okada
■主な受賞一覧
<長編>
パルムドール:「ディーパン」(ジャック・オーディアール監督)
グランプリ:「サウルの息子」(ラズロ・ネメス監督)
監督賞:ホウ・シャオシェン(黒衣の刺客)
審査員賞:「ザ・ロブスター」(ヨルゴス・ランティモス)
脚本賞:ミシェル・フランコ(クロニック)
女優演技賞:ルーニー・マーラ(キャロル)、エマニュエル・ベルコ(モン・ロワ)
男優演技賞:ヴァンサン・ランドン(ラ・ロワ・デュ・マルシェ)
<短編>
パルムドール:「ウェイブス’98」(エリ・ドーア)
カメラドール 新人監督賞:「ラ・ティエラ・イ・ラ・ソンブラ」(セザール・オウガスト・アセベド)