カンヌ国際映画祭レポート2014 その9
パルムドールは評判通りのジェイラン監督による
3時間16分の長編「ウィンター・スリープ」に
5月14日から25日まで開催された第67回カンヌ国際映画祭は、今年は25日にヨーロッパ議会選挙が行われるため、1日繰り上げて24日にパルムドールをはじめとするコンペティション部門の各賞が発表された。
注目のパルムドールは下馬評通り、トルコ人監督ヌル・ビルゲ・ジェイランの「ウィンター・スリープ」に贈られた。これは、トルコの名所カッパドキアで若い妻とその姉と共にホテルを営む元役者の男と周囲の人たちが繰り広げる愛憎と葛藤のドラマ。ほとんどが会話劇で、英語の字幕を読むのに苦労した作品。これだったら別に映画にしなくても、舞台劇でいいのでは…とちょっぴり不満も出るが、ジェイラン監督は「冬の街」(02)で審査員賞、「スリー・モンキーズ」(08)で監督賞、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アナトリア」(11)で再び審査員賞を受賞しているカンヌ常連監督の一人。クェンティン・タランティーノとウーマ・サーマンから手渡された念願のパルムドールを手にして「この賞はトルコのために戦い、命を落とした若者たちに捧げる」とスピーチ。
今回、審査委員長ジェーン・カンピオンの意向が色濃く出たと思われるのが、大女優ソフィア・ローレンから同じイタリアの若手女性監督アリーチェ・ロルバケルに賞状が手渡されたグランプリ受賞作「ワンダーズ」だ。これは養蜂業一家を思春期の長女ジェルソミーナの視線から描いた家族ドラマ。
そしてカンヌも変わったと思われるのは、審査員賞を「言語よさらば」の83歳監督ジャン・リュック・ゴダールと共に、「マミー」の25歳監督グザヴィエ・ドランに贈られたことだ。いつも老練な監督ばかりが受賞する傾向が強いなか、何と若い、いや若すぎるほどのドラン監督の受賞は驚かされたと同時に、多くの若い映画ファンの支持も受けた。15歳の時に「ピアノ・レッスン」を見て感動したとカンピオン審査委員長の前で語り、涙でいっぱいにながら、ダニエル・ブリュールから賞状を受け取ったドラン。ついにはカンピオンと抱擁まで。「マミー」はエキセントリックなシングルマザーとADHD(注意欠陥多動性障害)の息子の葛藤ドラマで、映像や演出に非凡な才能を発揮するドラン監督は、もはや世界映画界注目の人となった。これからもその活躍が楽しみである。 (岡田光由)
写真:パルムドールを受賞したヌル・ビルゲ・ジェイラン監督
■主な受賞一覧
<コンペティション部門>
パルムドール 「ウィンター・スリープ」(ヌル・ビルゲ・ジェイラン監督)
グランプリ 「ワンダーズ」(アリーチェ・ロルバケル監督)
監督賞 ベネット・ミラー(フォックスキャッチャー)
審査員賞 「マミー」(グザヴィエ・ドラン)、「言語よさらば」(ジャン・リュック・ゴダール)
脚本賞 アンドレイ・ズビヤギンツェフとオレグ・ネギン(リバイアサン)
女優演技賞 ジュリアン・ムーア(マップス・トゥ・ザ・スターズ)
男優演技賞 ティモシー・スポール(ミスター・ターナー)
短編パルムドール 「レイディ」(シモン・メサ・ソト)
カメラドール 新人監督賞 「パーティーガール」(マリー・アマショウケリ、クラール・バーガー、サミュエル・テイスの共同)
<ある視点部門>
大賞 「ホワイト・ゴッド」(コルネル・ムンドルッツォ監督)
審査員賞 「ツーリスト」(リューベン・オストランド監督)
特別賞 「地の塩」 (ヴィム・ヴェンダースとジュリアーノ・リベイロ・サルガドの共同監督)
アンサンブル賞 「パーティーガール」 (マリー・アマショウケリ、クラール・バーガー、サミュエル・テイスの共同監督)
最優秀男優賞 デーヴィッド・グルフィル (チャーリーズ・カントリー)
Reported by Mitutosi Okada